「栗山くんっていう人が忘れられなくて…
自分が忘れさせてくれないといいますか…
すいません、わけがわからないですよね」
全く分からない。
こんなの自分でだって、理解不能だ。
もう10年も前のことだというのに。
顔すら、声すらもはっきりと覚えていないくせに、何を言っているのか。
それなのに、自分のやらかした罪のせいでも、まだ大好きだからという感じでもない。
ただ、自分が自分でつくづくわからなくなってくる。
「その子、何部?」
「野球部でした」
「そう、それやったら、なんか誠実そうなイメージあるわ」
「でも当時、野球部って言ったら、あまり良い印象はありませんでした」
あの頃の自分は「野球部」というくくりだけで、あの人を同類としてしまっていた。
「ま、いろいろあったんやな。」
「あの人の良いところ、何も見ようとしてなかったんですね、自分…」
ぽろっと零した台詞には、後悔というには厚かましく、懺悔というには浅はかだった。