「いえ、中学時代の…」

「えっ、まさか電車の痴漢野郎が、元彼?!」



先輩はいきり立って、椅子に座ったまま少し前に身を乗り出した。

そして、目を真ん丸に見開き、大層驚いていた。

自分のことなので、よくわかることだが、それだけは絶対にありえない。

断言できた。



「いえ。それだけは、誓ってもありません。
…中学の時の同級生です。く、栗山くん、っていうんです」

「栗山くんが元彼?」

「ち、違います!!」



自分は慌てて、否定する。

そんなシチュエーション、羨ましすぎる。

いや「元」が付いているってことは、空しいだけなのか?

それでも思うところはたくさんある。

久しぶりに、あの人の名前を口にした。

少し声に出すのが照れ臭かった。

今では思い出すだけで、過去の人。

あのころの自分を思うと、同じ空間にいる、それだけで幸せだった。