自分の欲を抑える事に必死だった。抱き締めて離したくないという強い思いと嫌われたくないという強い恐怖が俺の中で戦っていた。

「楽しかったなってよ」

抱き締められないならせめて思いだけでも伝えられたら。そうも思ったけど、無理だよな。言って良い訳ないよな。お前が好きだなんて言えない。口が裂けても絶対に言えない。ちくしょう。どうしたら良いんだ。

「そうですね・・・」

二人して涙を浮かべていた。きっと千里は高校三年の日々を思い出して。俺は告白出来ない自分が情けなくて。昔を惜しんで泣くのと自分の無力さに泣くのとでは偉い違いだな。
そう思うとよりいっそう、自分が情けなく感じるぜ。彼女の純粋さが羨ましい。少しだけで良いから俺にその純粋さを分けてくれないだろうか。