扉越しでよく聞こえなかったが、千里の事について説教しているみたいだ。一斉に近付いたり話し掛けたりすれば誰だってパニクるだろうとか、この年頃は進路で板挟みになる事が多くて不安定になっているんだから気を付けてとか。そんな内容の話をしているみたいだ。
千里はというと、俯いたまま自分の体を抱き締めて震えていた。嫌な事を思い出して恐怖に震えているのだろう。男の俺には気の利いた言葉も抱き締めて励ましてやる事も出来ない。
最悪だ。もし俺が女で仲の良い友達になれたのなら、今すぐにでも抱き締めてあげられたのに。大丈夫だよと言って安心させてあげる事が出来たのに。
一頻り騒いで、病室の外が静かになった頃。千里の震えはマシになっていた。少し収まって、出会った頃のようにうまく喋れはしないけれど声は絞り出せるようになっていたんだ。ただ、そんな事はないと分かっていても距離を置かれたような気がして寂しかった。

「ご・・・な・・・さい」