照れたように申し訳無いと笑う彼女に手を伸ばしてはいけない。彼女に触れた瞬間、俺の恋も教師の仕事も終わりを告げる。このまま、このまま触れたいという欲を抑えていかなければ。そうしなければ彼女の笑顔はもう、俺に向けられなくなってしまう。

「楽しめばそれで良いんだ」

彼女に言っているように見せ掛けて、俺は怯えている自分に言い聞かせた。楽しめばそれで良い。笑われるのは分かっているのだから、気にせずやりたいようにやれば良い。
そんな事は分かっているけれど、出来ないのが現実なんだよな。フラれてなんぼとか、当たって砕けろとか言うけどさ。そうするまでに勇気がいるから困ってんだよな。そうやって割り切れないから不満や文句を口にするんだよな。
打ち解けてきてくれた千里を家路に付かせ、俺も職員室に戻った。すると、机の上には健が連絡を欲しがっているという内容の置き手紙があった。