「歌もの、選ぶ気満々ですよね?」

疑うような、呆れたような。複雑な難しい表情をしている彼女は今、何を考えているのだろう。選んだらと言っておきながら、選ぼうとしている俺に呆れて明日が来なければいいとでも思っているのだろうか。それとも、調子の良い奴だとでも思っているのだろうか。

「バレたか」

お互い、笑い出す二人。これが幸せなんだ。他愛のない事で好きな人と笑い合える。昔の俺には知る事の出来なかった感情だ。
彼女と俺と二人の空間があれば成り立つ祝福の一時。他の誰にも渡したくない。我が儘な俺が出てくる時間。思いを伝えて関係が崩れてしまったらと臆病な俺が出てくる時間。
千里には伝わらないだろう。俺から伝えるまで知る事はないのだろう。両思いになれたらと期待して伝えたいと思うけれど、フラれた時の事を考えると躊躇してしまう。