「どうした?千里」

俺がそばにいた事を思い出したのか、千里は俺の顔を見ると涙を流し始めてしまった。そして、震えて動けない体を無理に立たせながら声を絞り出した。

「怖い・・・です・・・」

濡れた瞳を見て、犯したくなったのは事実だ。濡れた瞳で、弱った表情で頼ってくる彼女を壊してしまうくらい強く抱き締めたくなったのも事実。
俺は握りしめた右手をハンカチで包み、親指と人差し指だけ動けるようにして左手をネクタイで縛った。そしてボイスレコーダーの録音スイッチを入れ、何もしないから腕に掴まっていろと言って音楽室から出させた。そして職員室に行って音楽室の鍵を置いて玄関の鍵を取り、校舎の外へ出たんだ。その後、俺の車に乗せてそのまま家まで送っていったさ。でも、問題は家に帰って眠りに付こうとした時だ。右腕に彼女が抱き締めていた感触がまだ残っていて、中々眠りにつく事が出来なかったんだ。