必要な私物を持って音楽室に入ろうとすると、中から話し声が聞こえてきた。少し開いていた扉から声の主を確認すると、津田 隼人(つだ はやと)が千里と話し合っているみたいだ。

「・・・の事、好きなんですよね?伝えなくて良いんですか?伝えないと取られちゃうかもしれないんですよ?」

名前までは上手く聞こえなかったが、好きという単語がある時点で恋の話だろう。自分の胸がキュッと締め付けられるように苦しくなった。
俺なんか数いる教師の一人としか彼女に思われていないのは分かっていた。自分の気持ちを分かってくれる不思議な大人としか思われていないのだろうとは分かっていた。でも、それは心の中で思っているだけだから寂しいとか切ないという感情で終わらせる事が出来るんだ。
言葉でハッキリと聞いてしまった今の俺には割り切る事が出来なかった。そんな事、千里に限って無いだろうと思い込む事すら出来なかった。