今はただ、この景色の中で立っているのがやっとだった。でも、そんな私を他所に柏崎先生は話し掛けてくる。うまく言葉を返す自信がなかった。

「俺さ。昔からここで遊んでたんだ。ここまで奥に入れば誰も来ないし一人で遊んでいても声をかけられないだろ?」

確かに柏崎先生の足取りに迷いはなかった。真っ直ぐこの場所を目指して進み、立ち止まって辺りを確認する事もなかった。迷っているような雰囲気もなかった。
昔の事と何か関係しているのかな。ここで一人で遊んでいたという言葉が私の中で引っ掛かった。中学生まで続いていた柏崎先生へのいじめ。それがあったから、一人でいられるどこかを探してここを見つけたのかな。
私が祖父母に心配かけまいと嘘を吐いて外に出ていたように、柏崎先生もお母さんや旦那さん、お姉さんたちを心配させないようにしていたのかな。だから、こうやって家じゃなくても一人になれる場所を見付けたのかな。