何を言っても、千里は顔を横に振った。しかも、臨時教師は何を思ったのか。俺の腕に抱き着いてきてはそれを千里に見せびらかすようにこう言ってきた。

「ねぇ、結羽。この子誰?」

千里は俯いたまま、表情を見せてはくれなかった。けれど、紙袋を持った手に力が入って体は震えていた。やっとギクシャクした関係が無くなってきていたというのにこんな身勝手な奴に振り出しに戻されるのか。

「てめぇには関係ねぇ。恋人面すんな」

臨時教師は舌打ちすると千里の事を睨んで自分の車へ向かった。俺はというとあいつの言っていた事をどう撤回しようかと悩んでいた。違うんだと言っても嘘くさいし、撤回しないで恋人だと誤解されても嫌だし。

「悪い。最近付きまとってくるんだ、あいつ。千里はどうしてここに?」