「今行くから待ってろー!着替えてから行くから、千里は先に行ってろ」

上手く笑えていただろうか。引き吊ってはいなかっただろうか。いや、きっと引き吊っていただろうな。ぎこちない笑顔になっていたはずだ。
目を覚まし、彼女が胸の中にいた。それだけで風邪を引いている事なんて忘れ、熱もどこかへふっ飛んで行ってしまったから外に出る元気があった。
パジャマから厚めのセーターに着替え、ジーンズにダウンジャケットで部屋を出る。千里を外で待たせておく訳にはいかないと早く行こうとすると誰かにぶつかった。

「わっ・・・」

千里だ。コートを着た千里が部屋の前で待っていてくれたんだ。でも、どうして俺なんかを待ってくれていたんだ。あんな酷い事をしたのに何で。
どうして優しくしてくれるんだ。俺が風邪を引いているからか。だから、心配して優しくしてくれているのか。