一人一人の人生を決めているのであれば教えてよ、神様。どうしてそんなに不平等なの。どうしてそんな不平等な世界にしたの。命を、人の人生を何だと思っているの。チェスの駒のようにしか思っていないの。

「千里・・・」

柏崎先生の熱い手が私の力が入って固くなっている手をほどいた。弟の事を考えてつい力が入っていた手が柏崎先生の熱い手に触れるだけですっと力が抜けていった。まるで金属が熱で溶けていくみたいに、私の固く握った両手が簡単にほどけていってしまった。
フッと現実に引き戻された私は柏崎先生に謝りながら俯いた顔を上げる。けれど、柏崎先生は風邪で辛いはずの体を起こすと私の頭をそっと、優しく撫でてくれた。
それはまるで、もう何も考えなくて良いんだと言ってくれているような気がして。汚された過去は水に流して忘れてしまって良いんだと言ってくれているような気がして。