俺の腕を泣きながら抱き締める千里のおかげで正気を取り戻す事が出来た。冗談じゃないか、未遂じゃないか。犯される前に止められたんだ。
俺は千里の頭に手を回し、そのまま引き寄せた。抱き締めていると言って良いのか、押さえ付けていると言って良いのか。ただ、彼女の涙が誰にも見えないように俺の体に寄せたんだ。

「先、行ってるな」

古川は俺の事を鼻で笑うと呆れたように、仕方のない奴だとでも言うように笑顔で部屋を出ていったんだ。きっと俺にさっさとコクれとでも言いたかったんだろう。
そんなに好きで大切にしているのであれば、躊躇う必要なんてないだろう。うじうじと頭で考え、もじもじと言わないでいるからこうなるんだ。
好きなのに何も言わないでそばにいる事しかしない俺に腹が立つのかもしれない。うじうじして何やってんだって思っているのかもしれない。古川の気持ちは分からなくないが、余計なお世話だとも思う。