私の手を引いて会場の中央に行くと曲に合わせて踊り始めたんだ。まるで昔話に出てくるお姫様にでもなった気分だった。柏崎先生の添えられた手と近付く体に身を委ねているだけでステップを踏めるようになっている。踊った事もないのに、何も考えなくても見よう見まねで踊れるようになっている。

「踊った事、あるのか?」

首を横に振る私に笑いかける柏崎先生。一曲が終わるまでに、時間が止まってほしいと何度思ったんだろう。この時間が永遠に続いてくれれば良いのにって何度望んだのだろう。
幸せだった。昔の私からは考えられないほど楽しくて、笑顔が絶えなかった。このまま死ねるなら本能とすら思った。でも、現実は現実。楽しい時間はすぐに去ってしまう。
柏崎先生と踊っていた一曲が終わってしまった。離れていく手と手、届かなくなっていく体。私はまた、一人になってしまうんだ。