もしかしたらこの曲がり角から出てくるんじゃないかとか、俯いている顔を上げたら向こう側を歩いているんじゃないかとか。あるはずのない期待を抱いては落ち込み、狭い田舎町だから今日はたまたま会えなかっただけかもしれないなんて自分を励まし。
彼女の事ばかり考えている内に卒業式も終わって春休みになっていた。町の外へ行く友達の見送りも7割は彼女に会えるかもしれないという期待で行っていた。結局、会える事は無かったんだけど願っていればチャンスは訪れるものらしい。

「これですか?」

町外れのデパートの中にある楽器屋へ行った時の事だった。新しい譜面が欲しくて楽譜コーナーを見ていたんだ。すると、三脚が見付からずに背伸びをして譜面を取ろうとする彼女の姿があったんだ。
ヒールを履いていながら、指先しか届いていない。握力があまりないのか、密集された譜面を取り出す事が出来ていない姿にまた衝撃が走った。