俺の中で絶対的な存在になっているんだ。うろたえても仕方無いだろ。それくらい、好きになってしまっていたんだから。

「そういえば、龍人くん。良かったわねぇ」

一番聞きたくなかった名前だ。千里の事に気を取られて忘れていたが、俺が上がらなくても良いのに住居へ上がってきたのはあいつのせいじゃないか。
どうして母の口からあいつの名前が出てきたのかは分からない。でも、俺があいつの名前を聞いて苛立っているのは事実だ。そして、そんな俺を姉たちが少し怖がっているように見えるのもまた事実。
どんな表情をしているから怖がられているのかは分からない。けれど、尋常じゃない表情をしているのは確かなのだろう。自分でも、自分の顔が強張っているのが分かる。それでも屈しないのが姉なのかもしれない。訊かなくて良いのに母へ次女が質問していたんだ。

「龍人ってあの駆け落ちの?」