テラス席を囲う木の柵の向こう側で、愛しの彼女の大きな瞳が俺たちをロックオンしている。
「なんで、今日バイトだって…」
「いや、うん、バイトバイト。まあ俺はバイトしてもらってた側っていうか、雇い主的な?はは」
「……意味わかんない」
出た。
紗和の必殺"意味わかんない"攻撃。
これはやばい。非常にヤバイ。
「ごめん、緊急事態。おつりはとっといて」
「やった、ラッキー!」
財布から樋口一葉を取り出し、テーブルの上に置き去りにする。
相変わらずもぐもぐとパンケーキを食べ続ける田中先輩を置いて、猛ダッシュで店を出た俺。
涙目で走り去った紗和を追いかけて、息を切らせる。クソダサい。
そう。
本当の俺は、こんな感じでクソダサいのだ。