「…いい匂い、紗和」
「っ、ちょっと、千晶くん…!」
いつの間にかすとんと首筋に落ちていた千晶くんの綺麗な顔。
「やっぱ紗和の匂いが落ち着くわ」
「もう、犬じゃないんだからかがないでよっ」
「えぇ、無理。俺好きなんだよね、紗和の匂い」
…この王子様、この通りとても甘えたさんで。
黒木紗和(くろき さわ)
高校2年生、16歳。
クラスも同じ、家も隣同士のこの王子様にどうやら懐かれてしまっているみたいで。
「さーわ」
「んー」
結局今日も追手を巻いたあと肩を並べて帰り道を歩き、そのまま私の部屋へ直行。
「俺、眠い」
「ベッド使っていいよ」
「…やだ」
やだって、なんてやつ。
年頃の女子が自分のベッドを貸してあげると言っているのに。
「紗和、膝貸して」
「やだよ、足痺れるもん」
「いいじゃん。俺それじゃないと寝れない」
…いつも夜はどうやって寝てるんですかね。
そう突っ込みたい気持ちをおさえ、渋々膝を差し出せば満足そうにそこに頭を乗せる千晶くん。
「そうそう。この肉厚枕じゃないとね」
「……千晶くん最低」
「はは。冗談だって」
ここで必殺王子様スマイル。
この笑顔で何人の女の子たちがたぶらかされてきたことやら。