エマが目に落ち込んでいたため、ラスはディナーの席で隣のコハクの手を小さく叩いた。


「コー、エマが元気がないよ」


「そりゃそうだろ。知らねえ女がいきなり表れて男をかっさられたら誰でもそうなる。俺ならぶっ殺す」


自分はディノとアマンダをくっつけたい。

だがそうすれば、エマが傷つく。

誰かが報われない思いをしなければならないことを失念していたラスは、同じように少し元気がなくなってフォークとナイフを置いた。


「チビ?食べねえのか?」


「なんかお腹いっぱいになっちゃった」


すぐその変化に気付いたコハクも同じようにフォークとナイフを置き、背もたれに身体を預けて腕を組んだ。


「ところでアマンダはどうした?」


――空気がぴりっと凍りついた。

エマは俯き、ディノは周囲に父やメイドたちが居ないか確認して声を落とした。


「僕の部屋に居ます。…何かご用ですか?」


「いや、今後お前がどうするのか気になってさ。…あー、そこのあんた。アマンダはちょっとばかり足と声が不自由でさ。あんた友達になってやれよ」


「…え…?私は…」


「それはいいな!エマ、僕からも頼むよ」


「…この鈍感男が」


コハクが小さく呟いたがそれはディノに届かず、ラスに膝を叩かれて立ち上がったコハクはラスの手を取ってにっこり微笑んだ。


「じゃあ俺たちは部屋に戻るし。後でちょっと様子見に行くぜ」


「分かりました」


退席したコハクは、ラスをひょいっと抱っこして螺旋階段を上りながら含み笑いを漏らした。


「いやー、楽しい!人の不幸の蜜の味ってすげえ美味い!」


「コー、私エマさんのことなんにも考えてなかった…」


「それは仕方ねえよ。三角関係になったら誰かひとりは必ず不幸になる。ま、エマくらい美人だったら王子様じゃなくてもいくらでもいい男と出会えるぜ」


…普段あまり褒めたりしないコハクがエマを褒めたことで、ラスがちょっとむっとする。


そしてそれに気付かないコハクも、鈍感男のひとりだった。