エマはディノが知らない女を抱き上げて二階へ上がっていくのを驚愕の思いで見ていた。


…今まで彼が女を連れ込んだことなどない。

出入りしているのは自分だけのようなもので安心していたのにーー


「ディノ…その人は誰なの…?」


いずれは夫婦にと周囲から言われてその気でいたのに、あの美女…この辺の村の女ではない。

細い足に細い体に珍しいオレンジ色の長い髪ーー敵うわけない。


どこであんな女性と知り合ってここまで連れてくることになったのだろうか…?

気になり過ぎたエマは怒られるのを承知でディノの後をつけて、ディノの私室へ入っていくのを見て動揺を隠しきれない。


「ディノ…」


そっと部屋に近寄って、そっと少しだけドアを開けると、ディノは美女をソファに座らせて自らも隣に座ると、おずおずと手を伸ばして肩に触れていた。


「アマンダ…足は大丈夫?」


こくんと頷いたアマンダという名の美女は、あからさまに恋をした目でディノを見つめていた。

またディノも見たことがないようなやわらかい笑みを浮かべてアマンダの髪に触れるとーーアマンダがそっと抱きついた。


「…!」


悲鳴が出そうになって慌てて口を両手で覆ったエマは一歩後退り、ただただ見つめ合うふたりを見ていたくなくて階段を駆け下りる。


もしかしたら…もしかしたらいつか恋をしてくれるかもしれない、と小さな頃から期待しながら育ち、好きだと言ってくれる男たちを袖に振り、ディノが振り向いてくれるのを待っていたのに知らない女に横取りされるなんてーー


「許せない…!」


嫉妬の炎が燃え上がり、負の感情に敏感なコハクがラスと別室で寛ぎつつそれに気付いてにやりと笑った。


「きたきた、修羅場!」


「え?コー?」


「ん?なーんでもありません!」


にやにや。

魔王の策にハマり、手の内で踊り出す。