ラスが不器用ながら手当てをしてくれたおかげで痛みが軽くなったリロイは、騎士団たちを他の部屋に休ませてコハクとラスと3人になった。


「で、王様自ら何の用だよ」


「実はクリスタルパレスから100キロぐらい先の街が魔物に襲われたという報告があったんだ。騎士団を向かわせたんだけど、誰1人帰ってこなくて」


「で?お前が見に行ったってわけか」


「ああ。次はうちが狙われるかもしれないだろ。で、見に行ったら…」


リロイが唇を噛み締めて俯く。
椅子の背もたれに力無く身体を預けたその様子が無力さを物語り、ラスはリロイの手を握って励ました。


「でもリロイは死ななかったんだから私は嬉しいし、ティアラだってそう思ってるよ絶対」


「でー?早く本題に入ってくれませんかねえー?」


「…討伐を手伝ってほしい。街には誰1人居なかった。みんな殺されたり食われたりしたんだと思う。僕はこれ以上犠牲を出したくないんだ」


「お前さあ、俺が手伝ったら阿鼻叫喚の光景を見ることになるぜ?俺手抜き大嫌いだからな」


魔王と呼ばれる所以はその尋常ならざる魔法の力で世界を征服せんとした邪悪な考えの持ち主だったから。

ラスの父のカイに封じられたが今際の際に生まれて来る子の影に憑くと呪いをかけた恐ろしき男だ。
慈悲など持ち合わせていなかった。

…ラスと恋に落ちるまでは。


「…あそこに人は居ない。魔物相手にならいくらでも力を振るってもらって構わない。…頼む」


頭を下げたリロイの手を握ったままのラスにイライラMAXのコハクが邪険にその頼みを断ろうとした時ーー


「ただいまー!あれ、お客さん……あっ、勇者様だ!」


部屋に飛び込んできたのは双子のルゥとリィに末娘のエンジェルだ。

ラスからリロイの活躍を聞いたり手紙をもらったりしていた3人はわらわらとリロイを取り囲み、沈痛な面持ちのリロイと渋面のコハクの顔を交互に見た。


「パーパが…泣かしたの…?」


ラスそっくりのエンジェルがうるうる目を潤ませて泣きそうになると、コハクは慌てて抱きかかえて首を振った。


「い、いや違うぞ?パパは…」


「コーは勇者様だもん。悪い魔物をやっつけに行ってくれるんだよ」


「わー、すっげえ!パパかっこいい!」


…引っ込みがつかないところまで追い込まれたコハクは、笑顔に戻ったエンジェルを下ろすと腰に手を当てて大きくため息をついた。


「わーかったよ…やりゃあいいんだろ」


思わぬ展開にがっくり。