醜悪な魔物が街を跋扈する街、グリーンリバー。

だがその魔物たちは全員可愛らしいピンク色のエプロンを身に付け、武器の代わりにジョウロやスコップを手にせっせと花の世話をしたり、新たな家を建てたり真面目に過ごしている。

統治しているのは最近まで姿を見せることがなかった黒髪に赤い瞳の男だ。

…ルックスは恐ろしく美しいが…

残念ながら中身はとても残念な男だった。


「チビー、ルゥたちどこ行った?」


「学校だよ。そろそろ迎えに行かなくちゃ」


グリーンリバーの一番高い丘にある宮殿クラスの豪奢な建物の最上階を住まいにしているその男ーーコハクは、チビと呼ぶ最愛の女に魔術書を手に話しかけた。


「あーそうか、これ見てたらもうそんな時間経ったのか…くそ…チビとイチャイチャしてればよかった…」


コハクは滅んだと思われた魔法使いで不死の者であり、その不死の魔法を使って永遠の命を共に生きて行くことになった金髪碧眼の美少女ラスの隣にさっと座る。

ソファで子供3人分の洋服を畳んでいたラスは、にこにこしながら顔を近づけて来るコハクの頰を思い切り押した。


「今忙しいから」


「拒否られると燃える…!もっと!」


…結局こうなることは目に見えているわけで、受け入れても喜び、拒否しても喜ぶヘンタイ魔王の頰にキスしようとした時、何者かがドアをノックした。


「はーい」


「ちっ、邪魔が入りやがった」


不機嫌全開でいつの間にか緩めたネクタイを締めてドアを開けたコハクは、2本のねじれた角が頭に生えた山のように大きな魔物が一生懸命身体を縮めながらコハクに説明した。


「あの、クリスタルパレスから使者が…」


「ああ?クリスタルパレスって言やあ…」


「リロイとティアラがどうかしたの?もしかして来てるのっ?」


喜び勇んで立ち上がったラスが駆け寄り、魔物の隙間から廊下を覗き込んだが誰も居ない。


「あの、今、まだ入り口…呼んできますか?」


「いや追い返して来いよ」


「行くっ!コー、連れてってっ」



……ラスに押し切られた形のコハクが折れ、ひょいとラスを抱っこすると、その魔物と一緒に廊下を出た。


「何の用か聞いたか?」


「とにかく、大切な用事としか…」


とにかく久しぶりの再会だ。

コハクは苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、ラスは喜色満面でコハクを入り口に急かした。