「あーっ!!」
真夏の昼下がり、とある喫茶店から少女の叫び声が聞こえてきた。
店の前を通っていた歩行人の足を、止めるほどの声量だ。
「うるせえ叫び声だな。外まで聞こえてきたぞ。つーか、お前が大声出すとか珍しいな。何があった?」
足を止めた男性が、その喫茶店に入りながらそう言った。
その男性の名は、成瀬一弥。
ここの喫茶店の従業員だ。
「……あたしのパソコンがハッキングされた。使い物にならない」
カウンターでうなだれていた少女が、振り向きざまに答えた。
目に涙を溜めている。
その少女の名は三崎知由。
九歳とは思えないほどの頭脳と容姿の持ち主だ。
「それはよかったな」
買い出しに行っていた一弥は、ビニール袋をカウンターの上に置いた。
「よくない!」
「てか、お前のパソコンをハッキングできる奴なんかこの世に存在したんだな」
「……少し前にウサギにパソコンを貸した。おそらく、そのときにやられた」
知由は目の前にある、閉じられた黒いノートパソコンを、手で叩いた。
「ごめんね、ちぃちゃん。僕、何も知らずにメール開いちゃって……」