「それで? なぜソレを隼人は知ったの?」

「あるとき、友達の1人が冗談で『援交』という言葉を出した。実希とも全く関係のない話でね。
 でも、そのとき、俺はその可能性もあるんだって、何となく思っちゃったんだよね」




 1度そう思ってしまったら、もうそれ以外考えられない。




「中2の視野の狭いガキだった俺は、ほとんどそうだって決めつけていた。


・・・・・・当たってしまったのは、運の悪い偶然だ」




 実希が俺の部屋に遊びに来たとき、俺は静かに実希に尋ねた。
 実希は、否定しても無意味だと思ったのか、それとももう面倒になったのか、すぐに認めた。

――うん、そうだよ。

 言い終わらないうちに、俺は実希の肩を掴み、自分でも気づかないまま無理矢理キスをしていた。
 そのときの記憶はほとんどない。
 唇を離して、実希の顔を見たときに、俺は後悔した。



「ファーストキスは、そのときにした。
 実希は、泣いていた」



 夏菜は、いきなりブレーキに手をかけ、自転車を止めた。

 夏菜を追い越すことでそれに気づいた俺が、慌てて止まって振り返ると、彼女は、人通りの少ない歩道の真ん中で、自転車のハンドルに組んだ手を置き、その上に頭を乗せていた。

 何か考えているようにも、落ち込んでいるようにも見える。

 夏菜はしばらく動かなかった。

 俺は自転車から降り、それを押してゆっくり夏菜のところまで戻った。



「なるほどね」

 姿勢を変えずに、夏菜は言った。そのまま続ける。

「それで? どうして今も実希を好きなの?」

 俺は、その質問の返事に困った。

 

 可愛いから? 性格がいいから? スタイルがいいから? 器用だから?

 どれもこれも、夏菜の質問の意図には沿えないような気がした。

 だから、俺は正直に答えることにした。




「分からない。
 ただ、守ってあげたい」