「お父様………?」



ただ茫然と自分の腕に寄りかかる父親を見る。


眠っている人は重いという。


じゃあ、死んでいる人は?


今の香恵にはその重さなんか分からなかった。


政人の体を床に置き、グラスを手に持ちゆっくりと立ち上がる。


「香恵さんっ」


晶が香恵に駆け寄る。


「ウソよ、ウソよ……そんな…お父様が……」

「香恵さんっ落ち着いて下さい」


香恵の腕をつかむ。

どんな状況でも、冷静さを失ってはいけない。

そこから起こることが大事な手がかりを失わせてしまうかもしれないから―――


「ウソよっ!」


激しく腕を振り、晶を突き飛ばした。

思わぬ行動に床に叩きつけられてしまう。


「お父様が…死ぬ……わけ…ないっ……」


そしてそのまま香恵は倒れこんだ。

テーブルにぶつかり、グラスや料理が無惨に、床へと落ちて散らばる。


「イヤ…よ……」


香恵は涙を流し、そのまま気を失った。