社会人3年目の夏。
七月の終わりの31日に突然、連絡がきた。
それは父からの電話1本だった。
「千尋が死んだ。」
あまりにも非現実的なことを言う父に迷いもなく、私はこう言った。
「え?だれが?」
今思えば、聞こえなかったとかそういう感じで聞き返したわけじゃないんだな、って思う。
信じられない人の名前が挙がったから。
耳を疑うってこういうことだ。
「俺の妹の友子の娘の千尋が亡くなった!から、八月の2日3日休めるか?というか、休んでほしいんだけど、できるか?」
父はこのとき、家族全員で葬儀に行きたかったらしい。
千尋は父の妹さんの娘さんだ。
私とは従妹という関係ということになる。
そんな千尋とはかれこれ10年以上会っていない。
それなのに突然亡くなったなんて言葉で聞いても
全然、その時は実感どころか≪葬式に行く≫っていう
ただそれだけしか考えておらず、なにが起こってるのかわかっていなかった。
私は、職場の人になんとか伝えて二日間休みをもらった。
だけど、家に帰ってくるなり私は言葉を失うことになる。
「あんたは行かなくていい」
は?
母が言った言葉だった。
私も父も納得出来なかった。
父は妹さんの娘の葬式だから家族全員で出るつもりだったから。
そんなの当たり前におもうことだよね。
私だってそうだったから。
だけど母は違った。
「は?なんで」
私は父から電話を連絡を受け取ったときから家族全員が行くもんだとばかり思っていた。
なのに、行かなくていい?
職場から上司や他の仲間に事情を説明してなんとかとれた休みなのに?
千尋は従妹なのに?
従妹っていうより10年前だけど小さいころ遊んだ仲なのに?
父の妹さんの娘なのに?
家族で行かないっていう考えは既に私の脳内にはなかった。
「瑞樹は心の病気でしょ。影響受けやすいんじゃないの?ばあちゃんも、瑞樹は行かせないようにしてって」
確かに私はうつに近い診断書を診断されたことはある。
だけど、それとこれをはまた別の話で、
人が亡くなったって言うのに葬式に行かないなんて
母とばあちゃんはなんて常識外れなんだろうと思った。
うつと言っても、自分のことでしかマイナスにならない私。
他人の死にうつも関係ないってことを母に伝えたけれど、全然わかってくれなかった。
それどころか、
「瑞樹と圭太は残って。私とお父さんで行くから」と言い出してしまって…
さらに父の反感を買った。
圭太とは私の弟で8歳差の中学3年生。
来年の1月には受験で4月から高校生。
大事な時期だった。
「なんだそれ。いいよ、じゃあお前ひとり残れ。瑞樹と圭太を連れていくから」
その後しばらく喧嘩が続いた。
でも、私も父の意見に賛成だったので
「私は行くよ。圭太が受験で行けないならお母さんと残ればいいじゃん。止めたって無駄だよ、私行くって決めたから」
そう言って自分の部屋に籠った。