高校に入学して2年目の春。
中学に無かった念願のテニス部に入部して1年と2ヶ月。
今まで恋としたものをした事が無い私が、一目惚れをした。
5月に入って部長が突然「男子と合同練習をする」と言ったのがきっかけだった。
ペアになったのは一つ上の男の先輩。初めての合同練習とはいえ、同じテニス部なので「見たことある先輩」が第一印象。
「ナイスボレー!」
「次いこう次。」
「まだ入るよ。」
「やったじゃん、手だして!」
いざペアで組むと、まだテニス歴が未熟な私のフォローを凄いしてくれて、頼りになる先輩。
サーブを失敗した時も、ミスをしてしまった時も、キレイにボレーが決まった時も必ず声をかけてくれる。
けしてマイナスな言葉は言わないで笑ってくれ、逆に点を取れたときはまた毎回笑いながらハイタッチを求めてきた。
「もう一回打ってみて。」
練習試合が終わり個人練になった時、サーブがなかなか上手く決まらない私に先輩が教えてくれた。
ネットを越えて入るようになったものの、力がないのかサーブを打つ度に弱いボールが決まる。
先輩に言われた通りもう一回サーブを打つと、なにか閃いたような顔で近寄ってきた。
「ちょっとそのままでいて。しっかり覚えてね。・・・こんな感じでやってみて。」
いきなり近寄ってきたと思えば、先輩は私のラケットに触ってフォームの形を覚えるように指示してきた。
正直近距離で頭真っ白な状態だが、なんとか感覚を思い出しながらサーブを打ってみる。
さっきよりも打ちやすいように感じた。
「え。」
「お、キレイに入った。」
「うそ、入った。やった!」
喜んで先輩の方に体ごと向ければ手を挙げて待ってる先輩がいた。
迷わずその手にハイタッチをし、お礼を言う。
「そう言えば名前何ていうの?」
「あ、猪野又由紀(イノマタ ユキ)です。」
「じゃあ、いのちゃんね。」
そう言って、初めて付けられたあだ名を「いのちゃん、いのちゃん。」と呼ぶ先輩に思わず赤面してしまう。
試合の時はかっこよくて、こんなに笑顔が可愛い人なんだ。
何故が直視が出来ず、顔を逸らしたまんま「なんですかー。」と呼ぶ声に答えるのが精一杯だった。