わたしは深呼吸をすると、事情を話すことを決意した。

「――実は…わたしが副業をしているのは、亡くなった父の店をオープンさせるためなんです」

事情を話し始めたわたしを支社長は耳を傾けて聞いてくれるようだった。

「亡くなった父は、洋食店のシェフでした。

父の店でウエイトレスとして働いていた母は、わたしが3歳の時に病気で亡くなりました。

祖父から受け継いだ店を父は切り盛りをしながら、1人でわたしを育ててくれました。

そんな父の背中を見て育ったわたしは、いつしか“父の跡を継いで店を経営したい”と思うようになりました。

高校卒業後は調理師になるための専門学校に通って、店を継ぐことを夢見ながら勉強していました。

父はわたしが自分の店を継ぐことをとても楽しみにしていました」

そこで話を区切ると、支社長に視線を向けた。

支社長はわたしの話に耳を傾けているようだった。