今日何度目かわからないため息を付き教室に入る
うるさかった教室が一瞬で静まり返りザワザワし始める
大方私の悪口だろうけどね
それらを気にも留めずスタスタと自分の席に座る
机の中を見ようと思ったけど…止めた
だって、下駄箱があんだけ酷かったらこっちも酷いに決まってるし
そんな事考えてると派手なパンダメイクの女達が近寄ってきた
「ちょっと良いかしら?」
明らかに気の強そうなリーダー格であろう女
『なに』
面倒くさいと思いながらも一応返事をする
「アンタよく来れたわね?」
『それが?』
「っ…!目障りだって言ってんのよ!!
大体、白龍の皆様を裏切ったアンタの居場所なんてもうどこにもないのよ!!」
『そう。なら話しかけなきゃ良いでしょ?』
「っ!うるさいのよ!!」
うるさいのはアンタだよ
心の中でそうツッコミながらキャンキャン騒ぐ犬のような女を眺める
その態度が気に入らなかったのか更にうるさくなった女
終いには周りにいた女達も騒ぎ出した
うるさい。うるさい。
あー!もう、なんで速斗はこんな所来いなんて言ったの?
訳わかんない
そんな事を悶々と考えていたら教室の外が別の意味で煩くなった
あれは悲鳴に近いな。
よくあんな甲高い声が出るよなぁ。なんて呑気に考えてみる
「おっはよー」
なんて言って堂々と遅刻して来た男達
私を視界に入れた瞬間一瞬で雰囲気が変わった
酷いねー。元はと言えど“仲間”だったのにさ
「てめぇ。なんでここに居るんだよ」
『私がどこに居ようが関係ないじゃない。』
「今すぐ消えろ」
『言われなくてもそうするわよ』
あぁ。胸糞悪い。
速斗の所に行こう
もうこの空間に居たくない。
席を立ち女達の横をすーと通り過ぎ教室を出る
『馬鹿みたい』
小さくそう零して理事長室へと向かった
私が居た教室があった階から一つ上の階に繋がる階段を上がり無駄に長い廊下を歩いていく
やっと“理事長室”と書かれた看板が見えた
ここまで来るのが面倒くさいんだよなぁ。
1階からだったら、エレベーター使えたのにさ。
なんで1階から5階の直通にしたんだか。
心の中で愚痴を零しながらやっとついた理事長室
ノックなしに扉を開ける
「麗美。ノックぐらいしろよ?」
『嫌。』
「はぁ。知ってた。」
じゃあ、言わないでよ。
「……アイツらに会ったのか…?」
なにか私の表情から読み取ったのかそう聞いてきた速斗。
隠す必要もないから正直に答える
『…会った。』
速斗は昔からこういう小さな変化には気づくのに1番気付いて欲しい事には全く気づかないんだから。
…気づかないのも無理ないんだけどね…だって速斗にとっての私はーー“妹”みたいな存在だから…
「…そうか。麗美こっち来いよ」
なんでと思いながらも足はそちらへ向かう
『な、なに?』
ぎゅっと抱き締められる
同時にドキンと胸が高鳴る
「泣きそうだったから」
あぁ。もう。なんでサラッとそんな事言っちゃうかな…
泣きたくなっちゃうじゃん
「我慢しなくていんだよ」
グラッと来た涙腺をなんとか抑える
『…うん』
どのぐらいそうしていたかわからない程時間が経って思い立ったかのように
「そこに、ミルクティーあるぞ」
そう言った
ミルクティーの響きにピクッと体が反応する
『ホント?』
「あぁ。ほらっ」
わざわざ備え付けの冷蔵庫まで行った速斗は私の方に向かってそれを投げる
私の手の中に収まったミルクティーは私の好きなメーカーのもので…
『ありがと!』
そう言ってから飲み始めた
「ホントそれ好きだよな」
『うん、大好き』
そう言った私から速斗が顔を背けた
「その笑顔はずるいって…」
ボソッとなにか呟いていたけどミルクティーに夢中になってる私が気づくはずもなかった
ミルクティーも飲み終わり私がのんびりしている間速斗は仕事が忙しかったのかずっと机に向かって作業していた
『速斗ー』
「ん?」
私が呼ぶと作業しながらこちらに顔を向けてくれた速斗
『手伝う事ない?』
「んー。あ。じゃあこれやっといてくんねぇか?」
そう言ってパソコンと書類の束を渡される
手伝いって言うよりこの量…ガッツリ仕事じゃない?
まぁ。いいけど。
以前も私が来た時手伝ったからやり方は知ってる
前と同じような作業をしていく
静かな部屋に私がパソコンに打ち込む音だけが響く
3時間程時間を使って
『出来たー』
「え。早くね?」
そう言う速斗に出来たものを渡す
「ホントだ。あれ、3日分はあったのに…」
『はぁ?』
速斗を殺気付きで睨む
「ご、ごめんって」
『…はぁ…疲れた。』
「今度ケーキ奢るから」
『……約束』
まさかこの約束が果たされないなんてこの時は思わなかった
『今日…倉庫行ってこようかな…最近行ってないし…』
「そっか…気をつけて行けよ?」
理事長室の中の速斗が作ったエレベーターに乗り1階まで降りる
一度自分の家へと帰り着替えてからバイクで倉庫への道を走る
楽しみだなぁ〜皆に会うの
どのぐらい行けてなかったっけ?
うーん。半月ぐらい行けてなかった気がする…
そんな事を考えているとあっという間に倉庫の前まで着いていた
バイクを停めて倉庫の扉を開ける
いつもなら総長!って声かけてくれる言葉が今日はなにもなかった。
それどころか…私に突き刺さる冷たい軽蔑しているような視線
どうしてそんな目を向けられるのかがわからなかった…