先輩は私のことなんて、覚えてない。
覚えて貰えてたら嬉しいけど、きっと無いもん。
「あ、愛美!! 先輩きたよ」
ほんとだ、先輩だ。
まだ3月――― 寒いのか、マフラーをしっかり首を巻いて、手はコートのポケットに突っ込んでいる。
毎日みてるその先輩の格好、それも今日が最後。
どれもこれも最後。
眠そうな顔して登校してくる先輩。
友だちと楽しそうに体育館で遊んでる先輩。
遅くまで図書館で勉強してた先輩。
「愛美、いってこいっ!!! 」
背中をポンッと押され、先輩に1歩近づく。
これを逃したら、もう会えない。
私は肩に掛けてるカバンをぎゅっと強く握りしめて、ゆっくり先輩に近づいてく。
歩み進める度に、心臓はどっきどっきと激しく音を立てる。
私の周りには、部活の後輩たちが先輩に花束を渡したり、卒業を寂しがってる音があちこちから聞こえるけど。
いまの私には、渉先輩だけ。
「渉先輩―――」