「愛美(マナミ)、いいの? 先輩、今日で最後なんだよ? もう会えないんだよ?」
「うん、わかってる」
見てるだけで、幸せだった―――。
目が合うだけで、挨拶できるだけで幸せだった―――。
「今日で卒業なんだからね!」
私、愛美。
この2年間、私はずっと渉(ワタル)先輩を見ていた。
出会いは、高校に入学してすぐのとき。
音楽室がわからなくて、校舎を彷徨ってるときに声を掛けてくれたのが渉先輩だった。
それから…… 私は渉先輩に恋をした。
「いまさら渉先輩になに話して良いかわからないよ」
さっき体育館で卒業式を終えて、卒業生がぞろぞろ校舎からでてきてる。
最後に一目、渉先輩をみたくて私は友だちと下駄箱で待ち伏せしてるんだけど。
「絶対に好きって言わないと、後悔するよ!」
さっきから友だちはこればっかり。
まだ先輩が出てこないからいいけど。
私だって先輩に好きって言いたいけど、言ったところで迷惑になるのはわかってる。