「ついに明日かぁ…」


練習が終わって渓くんと帰宅途中。


雲ひとつない星空を見上げてつぶやく。


「そうやな〜。この3ヶ月めっちゃ早かったわ」


「だって渓くん練習必死だったもんね」


わざとらしく首を傾げて笑う。


「ほんまにやで。俺、ベースどころかギターすら弾いたことなかったもん」


渓くんは笑いながらお手上げといったようなポーズをとった。


「…やっと、祐くんに聞かせてあげられるな。お前のこと恨んでますよ〜って」


渓くんは言っていいことと悪いこともわからないような無邪気な悪ガキみたい。


もちろん、それは大阪のノリという冗談なんだけど。


「そんなこと思ったりしないよ。むしろ拝まなきゃいけないくらい」


だから私は少し真面目っぽく、目の奥で笑って言った。


「偉大なる人物やもんな〜。いっそのこと、教科書とかに載せてもらう?」


いつも渓くんは大げさ。


でも、寂しさを吹き返さないようにっていう心遣いからくるものだからむしろ助かってる。


「あっ、気づいたらもう家じゃん。じゃあ、明日、頑張ろうね」


「おう、任しとけ!じゃあな」


と言って渓くんは片手をあげて帰っていった。


ほんとは帰る方向反対なんだけどな…。


付き合ってから帰るのが遅くなると必ず家まで送ってくれる。


そこも渓くんの優しい、大好きなところ。


「…緊張するなぁ」


ベッドに入り、天井を見ながらつぶやいた。


緊張しすぎて夜も眠れないかと思ったけど、全然そんなことなくて、気がついたら寝落ちしていた。