『シリア、私の唯一の心残りはあなたよ。
お母様はちょっと感情豊かな方だから……。
ねぇ、やっぱり一緒に行きましょう?』

家出する前日の真昼。

ジュリアはノースヴァン家に一人残すシリアを心配して、最後まで一緒に行こうと誘ってくれた。

でも、シリアがジュリアに付いて行ったとしても、邪魔になるだけだろう。

首を縦に振らなかったことを、シリアは今も後悔していなかった。

彼女はどこかで、元気にしているだろうか。



細やかな振動が、ゆっくりと止まる。

目の前には、壮麗な魔王の城が、悠然と立ちはだかっていた。