歩き馴れた道。
見慣れた景色。
聞き慣れた小鳥のさえずり。
何もかもが、「あの頃」と同じなのに。
意識せずとも霞む視界は。
「あの頃」は確かにあった、君の温もりを求めていた。
君の存在を求めていた。
君の……全てを求めていた。
夕焼けが、空を淡いオレンジに染める。
私は…………。
ただ、君の側にいたかった。
幼い頃、当たり前だと思っていた日常を取り戻したかった。
それが出来ないということは、自分が一番分かっているのに。
茜色に染められた風が、私の隣をすり抜けた。
いつの間にかこぼれ落ちていた、透明な雫に触れながら。