「忘れようとすればする程、忘れられない……ね」
「粃」
「妃海、どうしたの?」
史桜が去って、次の時間はサボろうかと思っていたからそのまま座って空を眺めていた。
妃海がいることに気がついていなかったわけじゃない。
多分、史桜は気がついていなかった。
昔は向かうところ敵なしなんじゃないかと思うほど喧嘩が強かったし気配にも敏感だったのに……
随分と変わっちゃったわね。
良くも悪くも。
「史桜くんと知り合いだったんだ」
「えぇ……兄の友人だったのよ」
「粃、お兄さんいたんだ!」
「とっても楽観的で優しい人だったわ」
良くいえば単純、悪くいえば子ども。
誰にも縛られない自由な人。
それにも関わらず誰一人として兄を嫌う人はいなかった。
それどころか人一倍他人に信頼され、他人を魅了する人だった。
だからこそ、私は双子や響葵たちに出会えた。
「粃はお兄さんのことが大好きなんだね」
「どうしてそう思うの?」
「分かるよ。
粃、すごく優しい顔してるもん」
「優しい顔……」