「ヒ……」



〝ヒロ〟とあたしが声をかけようとしたその人はあたしに目もくれる隙もないほど全速力で横を通り過ぎてった。



「……え?」



迎えに来てくれたと勘違いして出た笑顔はすぐに引っ込む。



「待って、どういうこと……?」



いまヒロはどこかに走って行った。
てことは、ヒロの家には誰もいない。
あたしがヒロの家に行ったところで意味がないのではないだろうか。



「どこいったんだろう……」



とりあえず、ヒロの連絡先をスマホから出して耳に当てる。



「すぐに戻ってくるよね……?」



あたしに気が付かないほど、何に必死だったのだろうか。
言いようのない不安があたしの心に広がる。



「……出ないか」



まだ走ってるのかもしれない。
スマホを見ていないのだろう。



「とりあえず、家の前で待とう」



ヒロの家までは目と鼻の先。
そこで待ってればそのうちヒロがやってくるだろう。