客間に入ると、お手伝いの人がお茶を運んできてすぐに出て行った。
「もしかして、長谷野さんの長男さんかな?」
「はい、その予想で合ってると思います。
僕も、お二人をパーティでお見かけしたことはあります」
「そうか。君が唯歌の大切な人だったのか。
これも何かの縁、だろうね。
唯歌は何も言わなかったから知らなかった。
辛い思いをしたのだろうね。申し訳ない」
そんな風に言われると思わなかった。
今日は既に涙腺が緩んでいたからか、涙が、溢れた。
「あの子が生きてたら、私も女の子の父として、嫉妬もしたのだろうけどね。
唯歌を大切にしてくれてありがとう」
「そうね。今日ここに来てくれたのは、唯歌のことを思ってくれたからでしょう?」
「……あの事故の日……俺と会ってた帰り道だったんです。
ごめんなさい。すみませんでした」
頭を下げた。謝ってもどうしようもないのだけど。
「そうだったのか。頭は下げなくていい。
遺された者は、君もそうだと思うけど、なんで?って思うし、色々なことを後悔している。
でも、生きていくことが、きっと供養になるから。
君は、まだ若い。これから経験していくことを大切にしなさい」
「幸せになってくださいね」
唇を噛んでも、涙が溢れた。
何も、言えない。
緊張ではなく、何か、別のものが、体を満たす。
俺が、唯歌の家族に伝えたいのは、謝罪だけじゃない。
「唯歌を産んでくれてありがとう御座いました。
俺、唯歌と会えて良かったから……」
「功介くん、ありがとう……」