「唯歌は、あの日のまま、なんだな。
俺は、嫌でも過ぎていく時間の中にいて、何もかも変わっていく。
遺された者は、生きていくんだな」


「辛い気持ちは癒えないけど、立ち止まっても時は進むわ。
悲しみにくれていても生活はずっと続いていく。

何かに対する責任も、生きていくための生活も、お姉ちゃんが亡くなってからも何もかわらないよ。


私は、もうすぐお姉ちゃんより歳上になってしまうわ。

見守ってくれると信じて、自分の幸せを見つけて、人生を全うするまで、生きていくのよ。


でも、お姉ちゃんはあの日のまま、これから先に起こることには責任も選ぶ自由もない。


だから、あの日のままのお姉ちゃんにその指輪をあげてほしい」


指輪を握った。


「歌織ちゃん、指輪を渡すことが、俺には、まだ辛いんだよ?忘れることは出来ないから」


「お姉ちゃんは幸せ者ね。

でも、お姉ちゃんは、新しく幸せを見つけることは出来ないから、あの時の幸せな時間を過ごした指輪をあげてほしいの。

功さんが、これから幸せであるためにもね」


柔らかく微笑んだ雰囲気は、唯歌と似ていた。