したことない、かもしれない。
『可愛い』とか『スタイルいい』とかその程度の下心は確かにあったかもしれない。


でも、


後先考えずに、自分からキスしたいって思ったのは……。


「"夏乃だから"の間違いじゃないの、それ」



───ビクッ



今まさに考えていたことを、神田が間髪入れずに言葉にしたせいで俺の肩が大きく揺れた。



「……あー!!もう、うっせぇ!早く自主練して来いよクソ野球部」

「人がせっかく、夏乃に振られて落ち込んでる藤井を励ましてやってたのに」

「さり気なく夏乃って呼ぶんじゃねぇ!!しかも振られてねぇ!!」

「そう?もう実は立花くんと正式にお付き合いスタートしてるかもしれないよ?」



ニヤッと笑って部活バッグを肩に掛けた神田は、俺にヒラっと手を振って教室の入口へと進む。


「ま、頑張れや」なんて呟いた神田の背中に「余計なお世話だ」と呟けば、フッと笑った神田はそのまま教室を出て行ってしまった。



教室に取り残された俺は1人、誰もいない教室の中、夏乃の席にドカッと座る。



「……俺の席、こっから結構見えんだな」



授業中、俺のこと見てくれてたりすんのかな。
夏乃の俺に対する『好き』は、まだ健在だろうか。



って……健在だったら、俺はどうする気なんだろう。何も自分の中で答えが出てねぇくせに、いざ夏乃が自分から離れていくと嫌だと思う。



こんなんじゃ、ほんとに夏乃に愛想尽かされるかな。