「じゃーね、おにーさん」


悔しそうなそいつの顔を見て、さっきまでの苛立ちはすっかりなくなっていた。


別に謝罪なんていらない。

謝って欲しかったわけじゃない。


そんなことをされるよりも、こっちの方がいい。



ああいう、悔しそうな顔を見れればそれでじゅうぶん。

……我ながら歪んだ性格をしていると思う。


その点で言えば、あいつ……日下部 陽愛は、最高だ。


猫くん猫くんと、楽しそうに人の名前を呼んだかと思えば

俺が一度いじればすぐに困ったような顔をするし、真っ赤に顔を染めたり、泣きそうな顔をしたり。


ころころと表情が変わって、いじりがいがある。


うるさくて暑苦しくて醜くて


だけどそういう、反応のいいところは唯一のあいつの長所だと思う。


困った表情、泣きそうな表情。

それを見るたびにもっといじりたくなる。


それなのに、思い出すのはいつも、はじけんばかりのあの笑顔だ。