「いやいや、待ってよおにーさん」
俺はそんな男を引き留める。
振り返るその男の顔からは、さっきまでの気前の良さはすっかりなくなっていた。
男に用はない
今更なんだ
そう言いたげな顔。
俺は口角を上げて、自分よりもはるかに身長の高いそいつを見上げる。
「人のこと、勝手に女と勘違いしてナンパしてきておいて、謝罪もないわけ?」
「あ?」
俺はそっと首を傾げて続ける。
挑発するような表情で。
人が、最もうざいととらえるような声音で。
「ま、俺が仮に女だと押してもおにーさんみたいな人には絶対についていかないけど」
せっかく身長があるのに、顔面偏差値はとても低い目の前の男。
これはナンパの成功率も低そうだ。
「なんだとこの……!!」
苛ついた男が、手を握りしめている。
そして拳となったそれが俺に向けられる前に、くるりと踵を返した俺。