──「えー、これで二学期始業式を終わりにします。3年生から教室に戻ってください」
あれから光瑠は、部活に1度も来なかった。
バスケ部の仲良い子に聞いてみたら、旅行に行ってたらしい。
多分、旅行になんて行ってない。
光瑠はあたしに会いたくなかった。
ただそれだけ。
でも、光瑠の心の中にあたしがいたのが嬉しくて。
光瑠の行動が少しでもあたし中心になってたのが嬉しくて。
だって、あたしに会いたくなかったってことは、少なくともあたしを意識してたってことでしょ?
ほんとアホらしいけど、それでも嬉しい。
始業式を終え、教室に戻る。
「二学期なので席替えをします」
先生がそう言うと、みんながわぁーっと騒ぎ出す。
いつものあたしなら嬉しいはずなのに、今日は全然嬉しくない。
光瑠の近くになりたくない。
光瑠の近くになりたい。
2つの気持ちがあたしの心の中で混ざっているから。
「ではくじを作ってきたので、端から順に引いてください」
「先生のお手製ー?大丈夫なの、それー」
野次を飛ばすのは相変わらず光瑠。
「大丈夫です!そんなに心配なら永野くんは引かなくて結構です!!」
先生も満更でもなさそう。
ほとんど毎日こういうやり取りを先生としてて、光瑠は先生のお気に入り。
「藤田さーん、引きに来てください」
ぼーっとしててよく聞いてなかった。
「すみません!今行きます」
…手を箱の中に入れて、一番最初に触れたものを引く。
手元の紙と黒板の数字を見比べて、黒板の数字のところに自分の名前を書き入れる。
「えーっと…23番はー…」
23番を探していると、先に光瑠の席を見つけた。
15番の横に、男子らしい光瑠の文字で『光瑠』。
16番の横には、可愛らしい文字で『ほのか』。
あーあ、光瑠とほのかちゃん隣じゃん。
どうすんの。
これ以上仲良くなっちゃったらもう嫌だよ…。
…なら夏休み、光瑠が仲良くしたいって言ってくれたの受け入れれば良かったのに。
今更ながら後悔する。
「なに、梨帆書かないの?さっさとしてよ」
不機嫌そうな声。
あたしにだけ、こんな不機嫌な声で喋るの。
…藍。
「あーうん、書くよ」
23番の横に『梨帆』と書く。
別に見たかったわけじゃないけど、藍が持っている紙がちらっと見えた。
…24番。
「え、なにオレら隣じゃん。うわ、最悪」
あたしが23番に名前を書いたのを見た瞬間、藍が本気で嫌そうに言う。
なに、あたしも嫌だし。
でも光瑠と近くじゃなかったことに少しホッとしている。
本当、矛盾してるなと自分でも思う。
「あたしも藍の隣とか嫌だし。…まぁ仲良くしようよ、ね?」
少しふざけてそう言うと、
「あぁ、仲良くしよーぜ」
なんてふざけて返ってくる。
藍の、こういう所が少し好き。
話してると楽になるっていうか。
…あっ、違う、好きって友達の方。
「何考えてんの。なんか、顔大忙しだけど」
相当表情をコロコロ変えてたらしく、藍に変な目で見られた。
「何でもないですー」
机を移動して、着席する。
光瑠とほのかちゃんが見える。
黒板を見ようとすると、どうしても目に入る位置にいる。
どうしよう、二学期中はこの席でしょ…。
あたしはそっとため息をついた。