「なんでその糸そこに使うの?」
あたしは急に話しかけてきたその男の子の名前を知らなかった。
2クラスあるうちの、自分と違う方のクラスの人だったのだと思う。
なにも知らない人に、自分の考えたことに反対されたことが嫌だった。
「え?じゃあどこに使うわけ?」
気づいたらそんな可愛げのない言葉を返していた。
お店屋さんの準備をしていく段階で、そいつとぶつかることも多くなった。
初めて言葉を交わしてから、2週間くらい経っても、あたしはそいつの名前を知ることは無かった。
でも、あたしはそれを意外な形で知ることとなる。
それは、同じ学年の違うクラスの友達と、習字教室で話してるとき。
「りほちゃんて好きな人とかいるの?」
小2で好きな人とか、ませてると思う。
好きな人とか周りで聞いてて、いいなと思ってたけど、できたことは無かった。
「ううん、いないよ」
「そっかー、わたし、りほちゃんはわたしのクラスのすごいモテる子が好きなんだと思ってた」
友達の言葉に、衝撃を受けた。
あたしは、誰がモテてる、とかそういうの全然知らなかったから。
「それって、誰?」
「えぇ、りほちゃん知らないの?『ながのひかる』くんだよ」
「ながのひかる…?聞いたことない」
「そーなの?りほちゃんいつも仲良さそうに喋ってるじゃん。風の車屋さんの男の子だよ」
いつも、あたしに突っかかってくるやつだ。
『ながのひかる』って言うんだ…。