嫌な汗が流れる。
私が泣いてしまったなんて話したら、きっとその理由を聞かれるだろう。
そうなれば、私の本心を……言うはめに……
ダメ。ダメだ。
それだけは絶対にダメだ!
「本当になんにもないよ!」
「……本当かね、一色クン?」
鬼龍院くんの視線が、ずっと押し黙っている彼方へと向く。
「本当になにもなかったのかい? 一色クンもどこか様子がおかしいように見えるが?」
「…………別に、なにも」
彼方の言葉に、鬼龍院くんは深く眉間にシワを寄せる。
その表情はどこか怒っているようで、苛ついているようで。
「近衛クンがおかしいことは君も気付いているはずだ。それなのに、何故〝なにもない〟などと逃げている? 君が一番近くにいるのに……なんでっ!」
悔しそうな鬼龍院くんの声が教室に響き渡った、
その時だ。
「失礼するわ!!」