「ちょ、ちょっと! 何やってるの! そこから離れなさい!」
女の人の声だ。
「嫌です! 離してください! 私には死ななきゃいけないわけがあるんです!」
「そりゃわけはあるんだろうけど、いいから! 早く! 離しなさいっ!」
私の身体は浮き上がり、そのまま橋の真ん中に真っ逆さまに頭から落ちた。
これは、プロレス技でいう、ブレーンバスターだ。
「ひ、ひどいじゃないですか! この、人殺しィィィィ!」
「……人殺しってあなた、死のうとしてたんでしょ?」
……おっしゃる通りだ。
「まったく、何をしてるの! びっくりしたよ、ホント。ちょっとおつかい頼まれて、雨が降り出して、近道でここを通ったらあなたが急に飛び降りようとしてたんだもん。死ななきゃいけないわけはあるんだろうけど、死んでいいことなんかないんだから。残された人が悲しむのよ? どこの誰だか知らな……。」
女の人の口が止まった。
「あんた……遊美? 遊美じゃない!」
「へっ?」
雨で前髪が濡れてよくわからなかったけど、この声、間違いない!
「ま、円お姉ちゃん!?」