おばさんからなるべく近いところの席に座った。
ここならおばさんにも親子丼を褒める言葉が聞こえるはずだ。
「あ、おばちゃん! 箸がない!」
「あー、ごめんごめん。はい、お箸。」
「さっすが! おばちゃん! いやね、最近どこ行っても割りばしでしょ? オレ、割りばし嫌いなんですよ。角が口を突いて来て……それに比べて、ここの学食の箸は……。」
……割りばしだ。
「わ、割りばしいいっすよねー! 洗う手間省けるし、普通の箸よりいいですよ! あれ、他の人が食べてるやつですし、なんか気持ち悪くって。」
割りばしを割って、それから親子丼を見る。
「このご飯、米粒一つ一つが、立……寝込んじゃってますね……え? ああ、いいんですよ! オレ、べっちゃべちゃのご飯の方が好きなんで! 風邪気味なんで!」
一口食べてみる。
「うっ……おばちゃん、この鶏肉ちゃんと火通ってますか? え? ああ、いいんですよ! ステーキも鶏肉もなんでもレアなんですよ、オレ。」
生の鶏肉はまずい……。でも、何か褒めなければ……あ! 卵!
「いやあ、卵がいいですね! ドロッドロで、まるで生卵……ああ、いいんですよ! オレの家、毎朝卵かけご飯ですからねー! いやあ、おふくろの味だなー!」
はははっ、泣きたい。