俺が昨日抱いた曖昧さは、きっとそれだった。

才能の合計値。各人が持っている才能に数値があるとしたら、皆人間である以上その合計値は同じはずだ。ただ、その割り振られ方が異なっているだけだ。

才能が1つの要素に大量に注ぎ込まれたなら、他がポンコツとなるが、その反面その1つについては常人ならざる力を発揮できる。持ち合わせられるステータスのほとんどが美貌に注ぎ込まれ、常識レベルの頭を失ってしまった日野はこの例にあたる。

反対に、どの要素にも満遍なく振られた場合、目立つミスもない代わりに、目立つ活躍もできない。これは俺だ。

そして、大抵のケースにおいて、前者が重宝されるのが今の世の中だ。よく考えれば当たり前の話だ。何かをしようとする時、何でもそれなりに満遍なくこなせるのを選ぶよりは、そのやりたい何かに特化した才能の持ち主に頼んだ方が遥かに効率がいいからだ。

つまり……平均的な人間など、決して「平均」ではない。何せ特化したものを持ち合わせていないため、何をするにも都合が悪い……言ってしまえば「最下位」に値する。

ここまで考えが至った時、頭痛を覚えるような衝撃を覚えた。

俺はずっと平均的に生きてきて、俺はいつも真ん中で、決して劣った存在ではない、だからといって優れた存在でもないと思っていた。だが今見てみれば、俺は優れた存在ではないどころか真ん中でもなく、最も劣った存在になってしまっている。初めから真ん中にいたわけでもないというのに、急に落とされた気分だった。

たまらずトイレに駆け込み、洗面台で顔を洗った。鏡を見てみれば、イケメンとして評価されることも、ブサイクとして注目されることも許されない、何とも陳腐な顔がそこにあった。橋にも棒にもかからないとは正にこのことだ。その陳腐な顔は群れからはぐれた水牛のように憔悴し切っていた。