そして、さらに2週間ほど経ち、冬服が少し暑くなってきた。

「佐賀」

本が出版されたとのことで、俺は佐賀に呼び出されていた。日野と一緒に中庭に着くと、佐賀の隣に金野もいた。泣き叫びそうになっているのを堪えているのか、その口元は引きつっていた。

「来たか。……日野も来るとはな」
「当たり前でしょ、直接の被害者は私なんだから」
「それもそうだな。さて、本題に入るが」

佐賀の手には1冊の本が握られていた。

「これが完成した本だ。金野には先に読んでもらったが、涙を流していた」

そう言いながら手渡された本の表紙には、「キリトリセン」と書かれていた。

「ん? これ、前に渡してもらった原稿とタイトルが違う気が……」
「タイトルくらい変わることもある。……まあ、読んでみろ」

そんなものか、と思いつつ、表紙をめくる。第1文に目を通す。

「1度落ちれば這い上がることなど許されないのに、復讐を考えようとは何と愚かであろうか、この女は。そして彼女について行った男もまた、哀れで愚かだ……」

本を持つ手が震えた。渡された原稿とまるで内容が違う。

「何だよこれ……これ、俺達の……!?」
「金野の悪事の暴露本じゃない……?」

その時、口を震わせていた金野が噴き出した。

「プッ……ハハハハハ! ようやく気づいたのか、君達は!」
「間抜けとはこのことだな……」
「ちょっと、どういうことよ!?」

日野に注がれた佐賀の視線は冷ややかだった。

「見てそのまま、そういうことだ」