「ふーん……それで金野君をね」
「うん」
「歌澄の話を聞く限りだと理由も無茶苦茶だし……分かった、協力するよ」

役者という難しい仕事をしているからか、一見無茶な要求の飲み込みも早かった。

「ありがとな、瓜古」
「気にしないで。同業者としても、金野君は危険に見えるし。それで、僕は何をしてたらいい?」
「金野が怪しい動きをしないか、見張ってて欲しいの。例えばこう……誰かそれっぽい人と連絡してないか、とか……」
「連絡くらい誰でもするでしょ、社長なんだから」

瓜古が笑う。

「まあ、やれるだけのことはやってみるよ。昼からでいいんだよね?」
「ああ。日野は仕事があるし、俺単体でジロジロ見とくわけにもいかないからな」

そうして瓜古に見張りを頼んだわけだが、特に怪しい行動は見られなかったという。俺も俺で出来る限り監視していたが、やはりそれらしい動きはなかった。

そうして警戒態勢を敷きながら、1ヶ月が経過した。

「阿倍」

昼休み、呼び出された俺は佐賀から封筒を受け取った。

「自分でもある程度推敲はしておいたが、お前の方でも見ておいてくれ。発表は早い方がいいから……明日、もう1度渡してくれ」
「分かった。手伝ってもらって悪いな」

俺は教室に戻り、原稿入りの封筒をカバンに入れた。そして心なしかカバンを大事に持ち、帰宅した。