「……で、ノンフィクション小説の執筆を頼むってわけか……」

翌日。教室で1人本を読んでいたこの男に、日野は頼みごとをしていた。

「頼めない? 高校生小説家としての佐賀文吾(サガ・ブンゴ)の名で暴露本を書いたら、説得力も出るかなって思ったんだけど……」

日野はあくまで周りに聞こえないように、ただし熱心に頼んだが、佐賀は読んでいた本から目を離しはしなかった。

「まあ、書くだけ書いてみるが……金野を敵に回すことはリスクを伴うから、そこだけ分かっといてくれ」
「リスク?」
「金野は会社社長、つまり金の力をふんだんに使える。いざ自分の身がピンチになれば、オレも、お前も、阿倍も、手に負えないような力でねじ伏せられるかもしれない」
「……ネジ……伏せる?」
「ねじ伏せる、だ……前の番組見たが、お前普段は賢そうなのに馬鹿が出る時はとんでもないな」

丁度その時登校した俺には、日野の顔がみるみる赤くなるのが見えた。そして俺と目が合うと、1度振り向き、平静を取り戻し俺の方へ来ると、佐賀が了承したとの旨を俺に伝えた。

「そうか。悪い、日野に頼ませることになって」
「別にいいわよ。一般人が頼んだところでややこしくなるだけだろうし」
「悪かったな、一般人で」

一般人の俺にしか出来ないことがあるのは事実だろうが、やはり一般人はその範囲が狭いということも事実だ。